薬液注入装置はナゼ必要?水によるボイラの障害と水処理方法について



 

こんな疑問をお持ちの方に向けた記事です。

  • ボイラの水処理って何で必要なの?
  • 水処理をしなかったら、どんなことが起こるの?
  • 清缶剤、PH調整剤、脱酸剤ってなに?

この記事では、水処理を適切にしなかった時に、ボイラに発生する問題とその問題が発生しないようにするための方法をまとめます。

参考になれば幸いです。

↓関連記事です。ボイラの水質を保つためには薬液注入とは別に適切な連続ブローが必要です。

こちらもぜひ、参考にしてください。

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水によるボイラの障害

給水やボイラ水を適切に処理しなかった場合のボイラ水による障害は、大きく以下の3つに分けられます。

   ①スケール、スラッジ

   ②腐食

   ③キャリーオーバー

それぞれについて、詳細に見ていきましょう。

【1】スケール、スラッジについて

まず、ボイラの水による障害で上げられるがスケールやスラッジです。

スケールやスラッジに関するポイントを3つ上げます。

  1. スケール(スラッジ)とは?
    スケール(スラッジ)は炭酸カルシウムや硫酸カルシウムなど、水に溶けなくなって管表面に析出したものを指す。
  2. スケール(スラッジ)はどうやってできる?
    スケール(スラッジ)は、「蒸発による濃縮」「ボイラ水の温度上昇」「化学反応」により析出する。
  3. スケールの何が悪い?
    スケールが伝熱管の表面に堆積すると伝熱効率が悪くなり、最悪の場合、伝熱管が焼損する。

詳しく見ていきましょう

スケール(スラッジ)とは?

スケールとは主に個体溶解成分(色々あるので後述します。)が伝熱面に付着して固形物となり、湯垢(=スケール)となったものです。

そうです!お風呂場の鏡や、水道周りについているあの白いやつです。

そして、湯垢が伝熱面に付着しないで、ボイラの底に溜まったものをスラッジと呼びます。

 

②スケール(スラッジ)はどうやってできる?

では、スケールはどの様に伝面に付着するのでしょうか?

主に以下の3つが挙げられます。
 

●蒸発による濃縮
伝熱により、管の内側表面で局所的に水が蒸発した際に溶解不純物が濃縮されてスケールとなる場合

●温度上昇
硫酸カルシウムのように、温度が上昇すると溶解量が減少する成分が温度上昇により析出しスケールとなる場合

●化学反応
化学反応により水に溶けることが出来る量が少ない生成物が新たに出来て、析出しスケールとなる場合

 

では、具体的にどのような成分がスケールやスラッジになりやすいのか見ていきましょう。


(1)重炭酸カルシウム(Ca(HCO3)2

重炭酸カルシウムは、スラッジを生成する成分として最も一般的なものです。これは、節炭器などで次式のように熱分解して、水に溶けることが出来る量が小さい(2)炭酸カルシウムとなるからです。

$$Ca(HCO_3)_2 → CaCO_3+H_2\ O+\ CO_2$$


(3)硫酸カルシウム(CaSO4

硫酸カルシウムは、温度が上がるほど水に溶けることが出来る量が減少するので、蒸発器などの管表面に付着します。


(4)重炭酸マグネシウム(Mg(HCO3)2

重炭酸マグネシウムは、次のように熱分解して、水に溶ける量が少ない(5)炭酸マグネシウムとなり、ボイラ底部に沈殿します。(スラッジになります。)

$$Mg(HCO_3)_2 → MgCO_3+\ H_2\ O+\ CO_2$$

さらに(5)炭酸マグネシウムは、水と加水分解により水に溶けにくい(7)水酸化マグネシウムとなり、スラッジとなります。

$$MgCO_3 + H_2O →Mg(OH)_2 + CO_2$$


(6)塩化マグネシウム(MgCl2

塩化マグネシウムは、大量に水に溶けることが出来るので、スケールの生成は少ないが、PHが適切に保たれていれば次式のように(7)水酸化マグネシウムのスラッジになり、ブローにより排出できます。
ただし、スケールとなった塩化マグネシウムが加水分解したときは塩酸となりボイラを腐食します。

$$MgCl_2 +2H_2O→ Mg(OH)_2+2HCl$$

$$MgCl_2 +Fe(OH)_2→ Mg(OH)_2+FeCl$$

$$MgCl_2 +2NaOH→ Mg(OH)_2+2NaCl$$


(8)硫酸マグネシウム(MgSO4

硫酸マグネシウムは、大量に水に溶けるので、スケールの生成は少ないが、(2)炭酸カルシウムと反応して、(3)硫酸カルシウム(7)水酸化マグネシウムとなり、硬質のスケールを形成する。

$$MgSO_4+CaCO_3+H_2O→ CaSO_4+Mg(OH)_2+CO_2$$


(9)シリカSiO2

日本の天然水にはシリカが多く含まれている。シリカは高温においても水に溶けないため、スケールを生成します。

また、給水中のカルシウムとケイ酸イオンとの結合でできるケイ酸カルシウムは、固い結晶質のスケールを生成し、機械的にも科学的にも除去するのが困難です。

シリカは、ボイラ水のアルカリ度を高くして、次式のようにケイ酸ナトリウムを生成させれば、ブローによって排出できます。

$$SiO_2 +2NaOH→ Na_sSiO_3+H_2O$$


③スケールの何が悪い?

これらの溶解不純物が、過飽和状態になりスケールが伝熱管の内面に析出すると、燃焼ガスが保有する熱を水へ伝熱しにくくなるのでボイラ効率が下がります。(スケールは伝熱の邪魔をします。)

さらにスケールが堆積すれば伝熱管が水で冷やされなくなり、最悪の場合、伝熱管の温度があがり破裂に繋がります。

また、塩化マグネシウムのようにスケールが加水分解すると塩酸が生じるので、ボイラ内部を腐食してしまします。



【2】 腐食

給水やボイラ水における腐食の要因は次の3つが挙げられます。

3つの腐食の要因

  1. pHの影響
  2. 溶存酸素
  3. 溶解塩

それぞれについて見ていきたいのですが、その前にイオン化傾向と置換反応について軽く触れたいと思います。(PHと溶存酸素による腐食を理解するための下準備です。)

⓪イオン化傾向と置換反応

一般的に、金属は水に触れているとイオンとなって溶解しようとする性質があります。

これをイオン化傾向と呼び、その大きさは金属によって異なりますが、大きい順に並べると以下のようになります。(中学校の化学の授業でやった記憶がうっすらありますね。)

    K ⇒ Na ⇒Ca ⇒ Mg ⇒ Zn ⇒ Fe ⇒ Cd ⇒ Co ⇒ Ni ⇒ Sn ⇒ Pb ⇒ H ⇒ Cu ⇒ Ag

イオン化傾向が大きいほど、金属イオンになりやすい。つまり、腐食しやすいと言えます。

さらに、ボイラの構成成分である鉄のイオン化傾向について見ていきましょう。


(1)鉄が水と触れている場合、鉄イオンが水中に溶出し、電子が2e残る

    Fe ⇒ Fe2+ + 2e


(2)水はその一部がHとOHに電離している。

    H2O → H+ + OH


(3)(1)のFe2+は、(2)の水中のOHと反応して、水酸化第一鉄Fe(OH)2となる。

    Fe2+ + 2OH → Fe(OH)2

(4)一方で(1)の2e(2個の電子)は、(2)のH+と鉄の表面で放電中和して、原子状水素2Hとなる。鉄表面は2Hに包まれる。

以上をまとめると

    Fe2+ + 2OH +2e + 2H+ ←→Fe(OH)2 + 2H

よって

    Fe + 2H2O ←→ Fe(OH)2 + 2H

となります。

水酸化第一鉄Fe(OH)2は難溶性の保護被膜を、2Hは水素被膜を形成し、これらは鉄表面をおおうので、イオン化傾向による腐食を抑制します。

つまり、鉄と接触する水が中性で、空気と完全に遮断されているときは、鉄の表面から微量の鉄が溶けだすだけで、腐食は起きないことが分かります。

逆に言えば、PHが低かったり、給水中に酸素があるとFe(OH)2がどんどん失われてしまうので、鉄は腐食してしまいます。

さらに詳しく見ていきましょう。

①pHの影響

PHが低いと、水中の水素イオン濃度が大きいので、アルカリ性の水酸化第一鉄Fe(OH)2は、次式のように水に溶け出してしまいます。

     Fe(OH)2 + 2H+ → Fe2+ + 2H2O

この反応によってFe(OH)2が減少すると、

     Fe + 2H2O ←→ Fe(OH)2 + 2H

はその減少量を補う方向に反応が進むので、pHが低いとFeがFe(OH)2へと変化する量が多くなるので、どんどん鉄は腐食してしまいます。

さらにPHが低いと、原子状水素2HはHとなって鉄表面からはがれてしまうので、皮膜を失った鉄はさらにイオン化傾向で腐食してしまいます。



②溶存酸素による腐食

水中に溶存酸素がある場合には、鉄の腐食を皮膜として防いでいた水酸化第一鉄と原子状水素2Hを酸化させます。

     4Fe(OH)2 + O2 + 2H2O → 4Fe(OH)3

        2H + 1/2O2 → H2O

また、Fe(OH)2が減少すると、

     Fe + 2H2O ←→ Fe(OH)2 + 2H

はその減少量を補う方向に反応が進むのでFeがFe(OH)2へと変化する量が多くなるので、どんどん鉄は腐食してしまいます。



一方で、給水が高温の場合にはFe(OH)2は次式のように分解されます。

     3Fe(OH)2 → Fe3O4 + 2H2O + H2

Fe3O4は黒色の水に溶けにくい酸化鉄でPHが適切で溶存酸素を含まないボイラ水中においては、鉄表面に非常に緻密な皮膜を形成して、鉄の腐食を防ぐ役割を果たします。(黒皮と呼ばれます。)

しかし、PHが低ければFe3O4が作り出される前にFe(OH)2が減少して、鉄は腐食してしまいます。

また、ボイラのように密閉された容器では、圧力が高いほうが(つまり、高温であるほうが)溶存酸素が多いので、 Fe(OH)2 はどんどん酸化されてしまい、緻密な Fe3O4 は形成されないので、鉄が腐食する速度が速くなります。


③溶融塩よる腐食

ボイラの給水には、酸が入り込むことは殆どないですが、復水器などの漏洩によって海水が混入する場合があります。

そして、海水中に多く含まれる塩化マグネシウム MgCl2 などの塩類は、高圧・高温のもとで加水分解によって塩酸を発生させて、腐食を起こすことがあります。

     MgCl2 + 2H2O → Mg(OH)2 + 2HCl

以上、ボイラ水による腐食は「PH」「溶存酸素」「溶解塩」などが適切に処理されなかったことが原因で、鉄を保護する皮膜が置換反応などにより形成されなかったことにより発生します。



【3】 キャリーオーバー

キャリーオーバーとは、ボイラ水中の不純物や水分が、蒸気と共にボイラ外へ排出されることを指します。

キャリーオーバーには2つの種類があります。

●機械的キャリーオーバー
不純物や清缶剤が水分または泡になって蒸気流に混入する場合

●溶解性キャリーオーバー
シリカのように蒸気中に溶解して蒸気流に混入する場合

これらのキャリーオーバーが発生する現象としてプライミングが挙げられます。

プライミングとは、急激な負荷変化などでドラム内の水面に達した気泡の破裂が激しくなり、多量の水と泡が蒸気に混入する現象です。

プライミングの発生原因として以下が挙げられれます。

プライミングの原因
 ●急激な負荷変化
 ●ドラム水面の面積不足
 ●ボイラ水に溶解固形物が多いとき
 ●シリカが多いとき
 ●油脂類が多いとき

このような場合は、プライミングによるキャリーオーバーが発生する可能性が高くなるので注意が必要です。

万が一キャリーオーバーが発生してしまうと

過熱器管や蒸気タービンの羽根などに析出物が付着して、ボイラ効率やタービン効率が低下するだけでなく、最悪の場合、局部過熱による過熱器管の破裂やタービン羽根の腐食が発生します。


水によるボイラの障害まとめ

まとめ(水によるボイラの障害)

  • ボイラ水による障害は、スケールの付着・腐食・キャリーオーバーの3つがある。
  • スケールは、「蒸発による濃縮」「温度上昇」「化学反応」によりボイラ水中の溶解物が析出して伝熱管に付着し、最悪の場合、伝熱管の破裂を引き起こす。
  • 腐食は、「PH」「溶存酸素」「溶解塩」などが適切に処理されなかったことが原因で、鉄を保護する皮膜が形成されずに発生する。
  • キャリーオーバーは、主にボイラ水に溶解固形物、シリカ、油脂分が多いことが理由でドラム内水面における気泡の破裂が激しくなり(プライミング)、水分が蒸気に混入して過熱器やタービン羽根表面に析出物を発生させる。

このようにボイラ水を適切に処理しなければ、ボイラやタービンに重大な障害を来す場合があるので、水処理はボイラの運転にとって重要な要素となります。

では、こうした障害が起こらないように水処理する方法はどのようなものがあるか見ていきましょう。



水処理方法(薬液注入)

水処理方法には、大きく分けて「ボイラ内」で行うものと「ボイラ外」で行うものがあります。

ボイラ外で行う方法としては、脱気器やイオン交換法などが挙げられますが、本記事ではボイラ内処理にフォーカスしたいと思います。

ボイラ内処理は、薬液注入装置を利用して、薬液をボイラや給水ラインに注入することで行います。

薬液は以下の3つに分類されます。

【3種類の薬液】

①PH調整剤・・・ボイラ水や給水のPHを調整する

②清缶剤(軟化剤)・・・ボイラ水の硬度成分を水に溶けない成分に変えてスラッジとして排出する

③脱酸剤・・ボイラ水や給水の溶存酸素を少なくする

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

①PH調整剤

給水およびボイラ水のpHはJISによって規定されています。

ボイラの種類や圧力などによって異なりますが、産業用の高圧ボイラではpH8.5~10.3が要求されます。

給水及びボイラ水がこの範囲に収まるように注入されるのがpH調整剤です。

pHを適切な範囲に保つ目的は以下の通りです。(詳細は前章の水によるボイラの障害を参照ください。)

pHを適切に保つ目的

  • 酸を中和して、適度なアルカリとして防食皮膜を作り、腐食を防止する。
  • ボイラ水中のCaやMgなどの硬度成分を、スラッジとして排出させ、スケールの付着を防止する。
  • シリカをケイ酸ナトリウムに置き換えて存在させて、スケールの付着を防止する。

では、どのような種類があるのか見ていきましょう。

①アンモニア

アンモニアは塩化アンモニウム(NH4Cl)や水酸化アンモニウム(NH4OH)などの薬剤として投入し、ボイラ内部にてアンモニアを発生させます。

②アミン

アミン系化合物には、中和性アミンと皮膜性アミンがありますが、

ボイラ用薬液としては、モルフォリンC4H9NO,シクロヘキシルアミンC6H11NH2などが多く用いられます。



②清缶剤(軟化剤)

給水やボイラ水に添加して、水中の硬度成分を水に溶けない、やわらかい泥状の化合物(スラッジ)とする薬剤を清缶剤と言います。清缶剤にはpHを上げる役割も同時に担います。

清缶剤には、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどがあります。


①炭酸ナトリウム

炭酸ナトリウムは古くから使用されていたが、現在は低圧ボイラに使われる程度で高圧ボイラには適切ではありません。

ボイラ水での反応は以下の通りです。

$$CaSO_4 + 2Na_2CO_3 → CaCO_3 + 2Na_2SO_4$$

$$MgSO_4 + 2Na_2CO_3 → MgCO_3 + 2Na_2SO_4$$

$$CaCl_2 + 2Na_2CO_3 → CaCO_3 + 2NaCl$$

$$MgCl_2 + 2Na_2CO_3 → MgCO_3 + 2NaCl$$

この反応により析出したCaCO3やMgCO3はスラッジとなり、Na2SO4やNaClは水に溶けやすいのでプライミングを起こしやすいため、ブローによって排出します。


②りん酸ナトリウム

リン酸ナトリウムはpH調整剤としても使用されますが、清缶剤としてスケールを防止することを主目的に投入されます。

リン酸ナトリウムは、ボイラ水中にPO43-(リン酸イオン濃度)が適切な濃度であれば、容易にスケールの付着を防止できます。

CaやMgと即座に反応して、リン酸塩を形成してスラッジとなるためです。


③脱酸剤

先にも述べている通り、ボイラ給水に酸素が溶けていると腐食を起こします。脱気器などで機械的に酸素を取り除く方法と併用して、給水に脱酸剤を注入して化学的に酸素を取り除きます。

脱酸剤には主にヒドラジンが挙げられます。

次の化学反応で酸素を水と窒素に変換します。

$$N_2H_4 + O_2 → N_2 + 2H_2O$$


薬液注入まとめ

まとめ(薬液注入)

  • 給水やボイラ水処理には、ボイラ内処理(薬液注入)とボイラ外処理がある。
  • 薬液注入には「pH調整剤」「清缶剤」「脱酸剤」がある。
  • 薬液注入は、化学反応により給水やボイラ水のpHや溶解固形物、溶存酸素量を適切にたもち、「スケール」「腐食」「キャリーオーバー」を防ぐ

以上、参考になれば幸いです。

この記事は、「舶用ボイラの基礎(成山堂)」を参考に書いています。

おすすめの参考書です。

さらに詳しいことを知りたい方はチェックしてみてください。(少し高いですが、その価値はあると思います。。。)

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